K二丁目

本の感想と、日常と。

アルコール中毒者の小説

 仕事で地元に行くことになった。交通費は会社負担だ。この機会に、地元の友人に会ったり、実家に帰ったりで、3日ほど過ごす。

 友人との食事は、交通費が浮いたこともあり、少し高めのレストランを予約した。都会の、高層ビルの上階にあるお店だ。少し場違いな気はしつつも、周りもスーツを着た社会人だ、おそらく傍目ではあまり変わらなかったと思う。

 久々に会った友人と、学生時代の話や、誰々が結婚しただとか、他愛ないがリラックスした会話を楽しんだ。仕事のため地元から離れ、普段友人という友人が近くにいない私は、こうした気の許せる人との時間が貴重なものとなっていた。日中は仕事の為職場の人間と顔を合わせ、もはや普段は滅多に来ない場所で、高校生時代からの友人と、少し背伸びしたレストランでの食事は、戸惑いながら、高揚感のあるひと時となっていた。

 寝泊りは実家で過ごす。私はあまり両親と話したりはしない。私が小さいときから単身赴任だった父親は特に、子供との接し方も得意じゃなく、会話なんてものはほとんどなかった。

 今まであまり気づかなかったのだが、父親の部屋には本棚があり、隙間なく作者毎に並べられていた。私が本に興味を持ちだしたのは最近だったため、今まで見向きもしなかったのだろう。父親は小説が好きなようだ。

 せっかくだから、どれか読んでみようと思うが、何が一番よかったか、持ち主に尋ねる。そうして迷うことなく差し出された本が、中島らもの「今夜、すべてのバーで」という本だった。帰りの新幹線と、数時間で、今読み終えたところだ。

アルコール中毒に詳しくなる

 主人公はアルコール中毒者で、35歳でいよいよ入院したところから物語が始まる。文庫本巻末の「山田風太郎」との対談にあったのだが、アル中・35歳で入院というのは、中島らも自身の実話だそうだ。通りで、リアリティがあり、またやけにアルコール中毒に詳しい。ちなみに、山田風太郎というのは、忍法帳シリーズの作者で、これは漫画化もされ、私が初めて知ったのは、学生時代にやっていたスロットにあったからだった。

 アルコール中毒者には、連続飲酒とうものがあるらしい。一日中、とにもかくにも飲み続ける。

抑制喪失飲酒の典型で、酒を数時間おきに飲み続け、絶えず体にアルコールのある状態が数日から数ヶ月も続く。その間、食事を摂ることはほとんどない。

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-029.html

 私はアルコールに弱く、1,2杯飲んだだけで頭がくらくらする。また、すぐに頭痛になるのだ。アルコール中毒者も、私と同じ体質ならこんなことにはならないだろう。そういう意味では、意思もなにもなく、本当に病気なのだ。

読むとどうなるか

 さてこの本を読むとどうなるか。極めて一個人のことだけを言うと、「酒が飲みたくなる」のである。内容には決して、アルコールの良さだとかが書いてあるわけではない。むしろ、アルコール中毒者のみじめな、救いようのない残念な描写がほとんどだし、他の登場人物も似たようなものだった。

しかし私は、特に酒が好きなわけでも、強いわけでもないのに、読み終わったときには酒を飲みたくなってしまった。事実、読後、今この文章を書いている最中、わざわざウイスキーを買ってきて、頭の中をぐるぐるさせながらキーボードを叩いているのである。

 酔いがさめてきた頃にはおそらく、「本当に、感化されやすい人間だ」と思うと同時に、頭痛による後悔を感じているだろう。

追記

 父親に、せっかく教えてくれたのだから、「面白かった」くらいの感想は述べた。すると、中島らもは、ギャグセンスは抜群で、よくTVにでていた。ダウンタウンの松本は、中島らもに影響されたのだろうというメッセージが返ってきた。

 それを見て私は、youtubeで動画を漁る。こうやって、ちょっと前まではすぐに調べたり、観てみたりすることができなかったことを考えると、本当に恵まれた時代に生きることができたのだと思う。父の言うとおり、ギャグセンスは抜群だ。面白い。とても笑える。この時代は、こういった、皮肉な、クールな笑いが流行で、モテていたというのを聞いたことがある。まあ、笑えたというのも、酒をのんで、酔っぱらっているからだと思うのだが。